診療案内

縦隔疾患

胸腺上皮性腫瘍

胸腺上皮性腫瘍とは

胸骨の裏側(前縦隔)に位置する胸腺に出来る腫瘍で、胸腺腫、胸腺がん、胸腺カルチノイドがあります。この中では胸腺腫が最も頻繁に見られる腫瘍です。
胸腺腫は腫瘍の中に免疫細胞であるリンパ球を含んでいることが多く、重症筋無力症などの自己免疫疾患(自分の臓器の一部を攻撃してしまう自己抗体が引き起こす病気)を合併することがあります。胸腺腫は一般に進行が遅く、リンパ節や他の臓器への血流にのった転移は稀ですが、左右の胸腔(肺の周囲のスペース)にこぼれ落ちるように広がることがあります。これを胸膜播種と呼びます。
胸腺がんや胸腺カルチノイドは胸腺腫と比べると稀ですが、一般的に進行が早く、発見時にはリンパ節や他の臓器への転移を認めることが珍しくはありません。

診断法と病気の進み具合

診断には画像診断と質的診断があります。画像診断には、X線、CT、MRI、PETなどがあり、それぞれの長所・短所を考慮して必要な検査を行います。

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画像検査 使用線種 使用薬剤 長所 短所
X線 X線 なし 簡便 低い感度・特異性
CT X線 造影剤士 高い空間分解能
立体的評価(3D-CT)
被爆
形態・CT値による評価のみ
MRI 磁気・
電磁波
造影剤士 質的診断(特に水分:嚢胞など)
浸潤の評価(ダイナミックMRI)
長時間・閉所
体内金属
PET у線 FDG 代謝活性≒悪性度評価
全身評価(病期診断)
高価
空間分解能は高くない

胸腺腫・胸腺がんにおける治療方針のまとめ

NCCN 腫瘍学臨床診療ガイドライン(日本肺癌学会が監修し、胸腺腫・胸腺がんの診療の指針として活用されているガイドライン)より抜粋

I、II期 手術
Ⅲ期(切除可能) 手術
Ⅲ期(切除不能) 化学療法後、切除可能になれば手術 or 放射線化学療法
Ⅳ期 化学療法*

* Ⅳ期でも病態(部分的な胸膜播種(きょうまくはしゅ)やリンパ節転移)によっては手術を考慮することもあります。

稀ですが、胸を開いてみて病巣が予想以上に拡がっており、切除不能と判断した場合は予定の切除を行なわずに違った
治療法に切り替えることがあります。

治療法

胸腺上皮性腫瘍の治療は病気の進行に応じて、局所治療、全身治療、またはその組み合わせが選択されます。腫瘍が全身に広がっていない場合(胸部にとどまっている場合)は局所治療が選択されます。局所治療には手術と放射線治療がありますが、胸腺上皮性腫瘍に対する放射線治療の効果は手術と比べて不十分であることが多く、手術に耐えられる体力があれば、手術が第一選択となります。手術に耐えられるかどうかは、合併症の程度、心肺機能などから判断されます。

手術の方法

胸腺上皮性腫瘍に対する手術では、通常、胸腺をすべて取ります(胸腺全摘)。病気の進行によって、直接進展した臓器(心膜、肺、大血管など)を胸腺につけたまま切除(合併切除)したり、胸膜病変(腫瘍から胸腔にこぼれ落ちた病変)も切除する場合があります。
手術のアプローチは、胸腔鏡と開胸という方法があり、最近では手術支援ロボットを用いた鏡視下手術も行われます。どの方法を選択するかは病気の進み具合等で決めますが、どの手術でも、肺そのものを切除する手順や範囲はほぼ同じです。進行した病変で、血管などの合併切除が必要な場合は、通常開胸手術(胸骨正中切開)が選択されます。

  • 胸腔鏡

    利点
    創が小さいため、術後の痛みが軽く、回復が早い。美容上優れている。
    欠点
    手術操作がやや制限され、出血等の対応に遅れが生じる可能性がある。
  • 開胸

    利点
    手術操作において直視が可能で、手を入れて臓器を触れる。
    欠点
    創が大きいため、術後の痛みが強い。大きな創のため美容上問題。
  • ロボット

    利点
    従来の胸腔鏡手術と同様(実際には手術操作中に胸壁にかかる負担が従来の胸腔鏡手術よりも少ないと考えられています)で、創が小さいため、術後の痛みが軽く、回復が早い。美容上優れている。
    欠点
    細かな手術操作への制限は少ないが、出血時などに開胸手術への移行が必要な際、ロボットを患者さんの体から出す必要があり、その分従来の胸腔鏡手術よりも開胸までに時間がかかる可能性がある。

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重症筋無力症

重症筋無力症とは

手足の筋肉が疲れやすく、力が入らなくなる病気です。まぶたが上がらなくなったり(眼瞼下垂;がんけんかすい)、ものが重なって見える(複視;ふくし)などの眼の症状を起こしやすいのですが、飲み込むことが難しくなったり、重症の場合は呼吸する筋肉を動かすことができなくなって、人工呼吸が必要になることがあります。
筋肉を動かすために神経から出るアセチルコリンという物質の働きを妨げる自己抗体(通常の抗体は外から入ってきた異物を妨げるものですが、自己抗体は自分の体の一部にくっついてその働きを妨げてしまいます。)が原因の一つと考えられています。重症筋無力症の場合の自己抗体は抗アセチルコリン受容体抗体といいます。
なぜ抗アセチルコリン受容体抗体が作られてしまうのかはわかっていませんが、それが多く作られている患者さんの場合に胸腺が肥大していることも多く、胸腺が病変と関連していると考えられています。また、約10−30%の患者さんで胸腺腫を合併することがあります。

診断法と病気の進み具合

血液検査で抗アセチルコリン受容体抗体を調べたり、薬剤(テンシロン)の注射で症状が改善されるかを調べる、筋電図で刺激に対する反応を調べるなどの方法で重症筋無力症が診断されます。また、CTなどの画像検査によって胸腺腫がないかどうか調べます。
病気の進み具合は、大きく分けて、眼の症状が主体である眼筋型と呼吸困難などの全身症状がみられる全身型に分けられます。

治療法

病気の進み具合によって治療法は様々ですが、ほぼすべての患者さんでアセチルコリンの働きを改善する目的で抗コリンエステラーゼ剤が使用されます。それに加えて、必要に応じて内科的治療としてステロイド、免疫抑制剤、免疫グロブリンなどが使用されます。
全身型で抗アセチルコリン受容体抗体陽性の患者さんでは、手術で胸腺を取り除くことで症状が改善することがあります。また胸腺腫を合併する患者さんでは、手術治療が第一に選択されます。

手術の方法

重症筋無力症に対する手術では、「拡大」胸腺全摘術が行われます。「拡大」とは、胸腺周囲の前縦隔の脂肪組織も胸腺と一緒に取り除くことを意味しています。その理由は、胸腺周囲の前縦隔の脂肪組織の中には「異所性胸腺」が存在しており、これも胸腺と同様に重症筋無力症に関与していると考えられているためです。
基本的な手術のアプローチは胸腔鏡と開胸という方法があり、最近では手術支援ロボットを用いた鏡視下手術も行われます。基本的に胸腺腫を合併しない場合は胸腔鏡手術などの低侵襲手術が行われることが多いです。

縦隔原発胚細胞腫瘍

縦隔原発胚細胞腫瘍とは

縦隔とは左右の肺がある胸腔に挟まれた、胸の真ん中に位置する部位で、心臓、気管、食道などが含まれています。胚細胞腫瘍とは胎児の時期に様々な種類の内臓になることができる能力を持った細胞(原始胚細胞)が悪性化したものと考えられています。胚細胞腫瘍は性腺(精巣・卵巣)にできるものと、他の部位(性腺外)にできるものがあり、性腺外の中では縦隔、特に心臓よりも前の前縦隔に発生するものが多いです。
縦隔原発胚細胞腫瘍の多くは悪性で、ほとんどが青年期の男性に発生します。良性腫瘍には成熟奇形腫があり、男女ともに同様の頻度で発生します。

診断法と病気の進み具合

診断には画像診断と質的診断があります。画像診断には、X線、CT、MRI、PETなどがあり、それぞれの長所・短所を考慮して必要な検査を行います。

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画像検査 使用線種 使用薬剤 長所 短所
X線 X線 なし 簡便 低い感度・特異性
CT X線 造影剤士 高い空間分解能
立体的評価(3D-CT)
被爆
形態・CT値による評価のみ
MRI 磁気・
電磁波
造影剤士 質的診断(特に水分:嚢胞など)
浸潤の評価(ダイナミックMRI)
長時間・閉所
体内金属
PET у線 FDG 代謝活性≒悪性度評価
全身評価(病期診断)
高価
空間分解能は高くない

質的診断(病理診断)のために、CT画像をみながら針を刺して生検(腫瘍の一部分を採取して診断を得る方法)を行ったり、胸腔鏡下手術を行うこともあります。

治療法

悪性腫瘍の場合、化学療法、放射線治療、手術を組み合わせた集学的治療が行われることが多く、手術を行うべきか、また、どのタイミングで手術が行われるかは、診断によって、治療への反応によってなど、症例によって様々です。良性腫瘍である成熟奇形腫の場合、基本的に手術が行われることが多いです。

手術の方法

手術では腫瘍をすべて取り除く腫瘍摘出が行われます。基本的な手術のアプローチは胸腔鏡と開胸という方法があり、最近では手術支援ロボットを用いた鏡視下手術も行われますが、縦隔原発胚細胞腫瘍では多くの場合に周囲の大血管などにくっついていることが多く、ときには血管の合併切除などが必要となるため、開胸(胸骨縦切開)が行われることが多いです。

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神経原性腫瘍

神経原性腫瘍とは

神経原性腫瘍とは神経に発生する腫瘍ですが、交感神経から発生することが多いです。(交感神経は、自らの意志とは無関係に身体の機能を調節する、いわゆる自律神経の一つで、身体を日中の活発な動作を行う際に適した状態にする働きがあります。)他に肋間神経などから発生することもあります。
成人に生じる神経原性腫瘍のほとんどは良性ですが、まれ(約5%)に悪性のことがあります。良性でも次第に大きくなって脊椎の中に入って脊髄神経を圧迫することもあり、発見された段階で、手術で取り除くことを検討します。

診断法と病気の進み具合

CTやMRIによる画像検査が診断に有用です。組織診断のために生検を行うことはまれで、診断と治療を兼ねて手術で切除することが多いです。

治療法

多くは良性で、化学療法や放射線治療を行うことは少なく、手術で腫瘍を取り除くことが多いです。

手術の方法

手術では腫瘍をすべて取り除く腫瘍摘出が行われます。基本的な手術のアプローチは胸腔鏡と開胸という方法があり、最近では手術支援ロボットを用いた鏡視下手術も行われます。腫瘍が椎体内に進展している場合、整形外科と共同で手術を行う必要があります。

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降下性壊死性縦隔炎

降下性壊死性縦隔炎とは

降下性壊死性縦隔炎は、喉の感染(咽頭炎)や歯の感染などにより頚部の深い領域に広がり、さらに気管や食道に沿って下に向かって縦隔に進展(降下)するもので、抗生剤のみでは治療が困難なことが多く、重症化により死に至る可能性もある感染症で、多くの場合緊急手術が必要です。

診断法と病気の進み具合

咽頭痛、頚部痛、発熱などの症状とCTなどの画像所見により診断されます。広がりの程度、場所はそれぞれの症例によって異なり、心臓周囲や胸腔に病変が広がることもあります。

治療法

抗生剤のみでは不十分なことが多く、そのような場合は手術によって炎症を改善させる必要があります。病変の広がり方によって、頚部、胸部、あるいは両方の手術が必要になります。頚部の手術は主に耳鼻科で行っていただくことが多いです。

手術の方法

手術では膿瘍腔(膿が溜まったスペース)を開放し、洗浄し、管を入れて体外に膿を排出(ドレナージ)します。手術のアプローチは胸腔鏡と開胸という方法があり、病気の進展や身体の状態などからどちらの方法を選択するか総合的に判断します。

入院スケジュール(クリニカルパス)

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