教育プログラムの作成・実践
私たちの教室では後輩や学生の教育に力を入れており、学生実習から初期・後期研修、呼吸器外科医の専門研修まで、体系化した教育プログラムを作成し実践しています。
以下は学生~呼吸器外科固定1年目までの「段階的カリキュラム」になります。このように学生のような初学者から専門研修医師まで段階的にカリキュラムを組むことで、年次や習熟度に合った学習が可能になると考えています。
「段階的カリキュラム」はそれぞれの年次に合わせた「知識」「技術」「戦略」に分け、それぞれのプログラムに沿って実施、評価をします。
段階的カリキュラム
分類 | プログラム | 4.5年生 | 5.6年生 | 初期研修 | 外科専攻 | 固定1一年目 |
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知識 | 呼吸器外科 解剖基本 | ○ | ○ | ○ | ||
知識 | 呼吸器外科 疾患基本 | ○ | ○ | ○ | ||
知識 | 呼吸器外科 手術基本 | ○ | ○ | ○ | ||
技術 | 縫合結紮1 | ○ | ||||
知識 | 局所解剖1(区域、亜区域、リンパ節) | ○ | ○ | ○ | ||
技術 | 縫合結紮2 | ○ | ○ | |||
技術 | 実践1(閉創時の皮下縫合結紮) | ○ | ○ | |||
技術 | 鏡視下手術基本 | ○ | ○ | |||
技術 | ハイブリッド肺1(カメラ保持、部分切除) | ○ | ○ | |||
技術 | 実践2(皮膚切開ーポート留置、ドレーン留置ー閉創) | ○ | ○ | |||
知識 | 理念・診療指針 | ○ | ○ | |||
技術 | 実践3(部分切除) | ○ | ||||
知識 | ガイドライン | ○ | ||||
知識 | 局所解剖2(胸壁、大血管、胸郭出口、胸管) | ○ | ||||
技術 | ハイブリッド肺2(解剖学的肺切除) | ○ | ||||
戦略 | 3DCTプランニング1(作成) | ○ | ||||
戦略 | 3DCTプランニング2(プレゼンテーション) | ○ | ||||
戦略 | シナリオ1(戦略共有:ディクテーション) | ○ | ||||
戦略 | シナリオ2(チームワーク:緊急開胸シミュレーション) | ○ | ||||
技術 | 実践4(解剖学的肺切除) | ○ |
「信州大学呼吸器外科テキスト」の作成
段階的カリキュラムの「知識」の部分に関して、当教室独自の「信州大学呼吸器外科テキスト」を作成しています。
内容は、解剖、ドレーンの仕組み等の基本的事項から区域切除の簡易的な手術手順、動静脈の分岐パターン等の区域切除に必要な知識の概略などに関するものになります。
このテキストを用いて、反復学習を行うことで知識の定着化を図っています。
プログラムに基づいた結紮・縫合実習
段階的カリキュラムの「技術」の部分に関して、学生や初期研修医には鶏肉を用いた縫合実習プログラムを元に、縫合や結紮のトレーニングを行ってもらいます。
各領域・項目ごとに、指導医がフィードバックを行います。合格点に達した初期研修医には、実際の手術症例で皮膚縫合を行ってもらいます。
ハイブリッド肺を用いたトレーニング
後期研修医~呼吸器外科固定医師には肋骨モデル+ハイブリッド肺(ジョンソン・エンド・ジョンソン株式会社提供)を用いた実践的なトレーニングを行ってもらいます。
鉗子などの道具の使い方から血管や気管支の剥離、血管の結紮を上級医指導の元、実際に行います。また、呼吸器外科手術では必須のエネルギーデバイスや自動縫合器といった器機を実際に使用して手術手順を進めることで、より実臨床に即したトレーニングが可能です。
上級指導医から毎回、即時フィードバックを行います。こちらで評価する/されることで、学習者に必要な項目や成長過程が可視化され、学習意欲向上につながります。
3D-CTによるプランニング/プレゼンテーション
段階的カリキュラムの「戦略」の部分に関して、 当院ではザイオソフト株式会社の「REVORAS」という3D解析ソフトを用いて手術のプランニングを行っています。
こちらのソフトは高い再現度で血管や気管支を3D構築し、さらには個々の症例に合わせた詳細な手術シミュレーションを可能としています。
呼吸器外科専門研修医は、こちらのワークステーションを用いて実際の手術のシミュレーション/プランニングを行い、カンファレンスでプレゼンテーションを行います。
MR anatomyを用いたシミュレーション
MR anatomyとは:CTで撮影した肺の構造を複合現実(Mixed Reality)で観察できるトレーニングシステムのことです(日本メドトロニック株式会社、キャノン株式会社、キャノンITソリューションズ株式会社、ザイオソフト株式会社提供) 。信州大学には2025年1月に導入されました。
「REVORAS」での手術シミュレーションを行った後に、このMR anatomyを用いて実際の症例でシミュレーションを行うことが可能です。
平面モニター上の画像だけでなく、リアルな3D画像を体感することで、「戦略」に役立つだけでなく、これまで学習した「知識」の復習、定着にも役立ちます。
ディクテーションによる戦略共有
ディクテーションとは、直訳では“英語の書き取り”や“外国語の書き取り試験”を意味しますが、私たちの教室では「症例プレゼンテーション+ディスカッション」として行っています。
呼吸器外科専門研修医が手術執刀症例のプレゼンテーションを行った後に、手術手順、使用する機器の説明、起こり得る合併症への対策などを発表し、執刀症例の「戦略」の共有をします。
上記のプレゼンテーションに対して指導医を含めてディスカッションを行い、手術に臨みます。このディクテーションは指導医がカンファレンスルームで二次元コードを読み込むことで即時フィードバックが可能となり、早急かつ確実な評価を行うことができるシステムを構築しています。
次世代の呼吸器外科医の育成
信州大学呼吸器外科は、「長野県全体で連携し、一貫した専門医育成システムを確立することで、志のある若手医師が充実感と達成感を得られる教育体制を構築する」ことを理念の一つに掲げています。
当教室で研修を受ける以上、一人前の呼吸器外科医として成長してほしい——それが、指導医全員の願いです。
当院では、複雑肺区域切除やサルベージ手術といった、他施設では困難な手術にも力を入れており、今後さらなる手術件数の増加が見込まれます。そのため、次世代を担う「若い力」が必要です。私たちは、後進の育成に対し、情熱と的確な指導を惜しみません。ぜひ、一緒に挑戦し、成長していきましょう。
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