どんな手術の名人でも
最初は初心者だった
外科医になったからと言っても、最初から完璧に手術できる人はいません。手術の知識や技能に、さらに経験が加わることで、徐々に手術が上達していきます。かといって知識や技能が不足している状態で、経験を積むために患者さんの手術を任せることはできません。
信州大学呼吸器外科では客観的に知識や技能を評価しつつ、徐々にステップアップしながら手術手技を習得してもらうよう実践しています。
手術トレーニングの取り組み
信州大学外科学教室には、4台の胸腔鏡シミュレーター(ドライラボ)を準備しており、常時稼働しています。空き時間や夜間休日など、いつでもトレーニングができます。
また、週末を利用して月に2-4回のウェットラボを実施しています。摘出ブタ心肺の肺動静脈に着色ジェルを注入したモデルを用いて、呼吸器外科スタッフが助手をしながら、習熟度に合わせて各術式をトレーニングしています。実際の手術と同様の血管剥離の操作などを経験でき、各操作の手技のコツなどを指導しています。
技能評価
呼吸器外科の基本手術である肺切除において、手術の難易度は②部分切除、③葉切除、④区域切除になるほど上昇していきます。これと①手術基本手技を合わせた4コースを設定しています。
各コースでは、ドライラボ、ウェットラボにてまず手術手技をトレーニングしていき、ある程度習熟したところで技能評価を行っています。
また、実際の手術を行う上では、鑑別診断や必要な検査、手術適応や術式決定、詳細な手術手順、術中トラブルシューティング、術後合併症への対応などこれらすべての知識が必要です。このためこれらについても口頭試問でテスト(ディクテーション)を行い、評価をしていきます。ディクテーションでは①必要なデータ収集能力、②臨床情報の解釈能力、③問題解決能力、④治療選択に対する根拠の説明能力を評価します。
トレーニングの三要素
①ドライラボテスト合格、②コース該当術式のシミュレーション手術5例以上の完遂、③該当術式について2名以上のスタッフから合格と判断され、④ディクテーションにおいても十分な能力を有すると認められると、コース修了として実際の臨床で経験を積んでいけるようにしています。
プログラム
プログラム | 対象 |
---|---|
胸腔鏡基本プログラム | 学生、初期・後期研修医 |
部分切除導入プログラム | 初期・後期研修医など |
肺葉切除導入プログラム | 呼吸器外科固定1年目あるいは 固定を考慮している後期研修医など |
区域切除導入プログラム | 呼吸器外科固定1年目など |
手術の上達が自分でもわかり、以前には難渋していた手術操作も、コツをつかんで容易にできるようになることを実感できるのは外科医として非常にうれしく快感です。それこそ外科の醍醐味だと思います。皆さんも一緒に修練を積んで上達していきましょう!
ディクテーションの一例
Early stage lung cancer IA-IIB
概要
- 新規発見肺結節の評価
- 孤立性肺結節の手術適応
- 早期肺癌に対する外科的
- 非外科的治療
症例情報
57 歳男性、膝関節手術後に生じた肺梗塞に対して行った CT 検査で右肺上葉に 2.1cm の充実性結節を発見され外来を受診。
- 質問1
- 鑑別診断とそのために必要な病歴聴取、身体検査、画像検査について述べてください。
- 質問2
- 治療を検討する上で他に必要な検査はありますか?
あればその検査名と目的を答えてください。
症例追加情報
PET にて肺結節には SUV7.1 の高集積あり。N0M0。気管支鏡で肺腺癌と診断された。他には特に異常なく、%FEV1 97%, %DLCO 110%。
- 質問3
- 臨床病期を答えてください。
- 質問4
- EBUS や縦隔鏡による侵襲的縦隔リンパ節の評価は必要ですか?
どのような場合に必要かも答えてください。 - 質問5
- 治療方針とその根拠について説明してください。
手術であれば術式についても、その根拠とともに答えてください。 - 質問6
- もしも耐術能がないと判断した場合、どのような治療法が考えられますか?
- 質問7
- 手術の方針で患者・家族も同意しました。
手術所見について麻酔導入となったところから、退室するまでを説明してください。
- 追加質問 1
- もし左肺上葉の病変で、PET にて#5リンパ節に単発の転移が疑われる場合、どうしますか?
- 追加質問 2
- 右肺門部腫瘍で肺癌が疑われ、手術であれば全摘が必要と考えられます。呼吸機能など耐術は問題ないです。気管支鏡で診断がつかず、診断・治療目的に手術の方針となりました。肺部分切除による診断は、病変の位置から困難と考えられます。全摘後した標本で迅速診断を行う方針として良いですか?
- 追加質問 3
- 右肺上葉切除を行っていますが、胸腔内洗浄細胞診が陽性と術中に判明しました。どうしますか?
- 追加質問 4
- 右肺上葉切除を行っていますが、#4Rリンパ節が迅速診断陽性と判明しました。どうしますか?
- 追加質問 5
- 右肺上葉切除を行っていますが、肺門部剥離中に肺動脈上幹への染み込みリンパ節を認めました。どうしますか?
- 追加質問 6
- 右肺上葉切除を行っていますが、肺門部剥離中に肺動脈上幹の壁損傷を生じ、出血しました。
どう対処しますか?