肝胆膵疾患

肝がん

はじめに

肝がんとは肝臓に発生するがんの総称です。肝がんには大きく分けて肝臓由来の『原発性肝がん』、肝臓以外から転移したがん細胞が肝臓で大きくなった『転移性肝がん』があります。
原発性肝がんのうち、『肝細胞がん』と呼ばれるがんが90%以上を占め、続く『胆管細胞がん』は5%程度です。
肝細胞がん、胆管細胞がん、転移性肝がんにはそれぞれ特徴があり、治療方針も異なります。

肝細胞がん

肝臓にできるがんのうち、肝細胞に由来するもので、原発性肝がんの94%を占めます。
がんが発生する原因の約80%が、B型/C型肝炎ウイルス感染による慢性肝炎や肝硬変といわれています。一方、近年では、アルコール摂取や過食などによる肝障害(アルコール性肝障害や、非アルコール性脂肪性肝炎など)が原因で発生する肝細胞がんが増加傾向であるといわれています。
一般的に肝細胞がんは症状が出にくく、痛みやしこりを触れるなどといった自覚症状はがんがかなり進んでくるまでほとんどありません。慢性肝炎や肝硬変には、だるくなる、皮膚や眼球の白い部分が黄色くなる(黄疸)、尿が濃くなる、からだ全体がむくむ、お腹に水が貯まり張ってくる(腹水)などといった症状があります。

胆管細胞がん

原発性肝がんのなかで、胆管細胞がんの占める割合は5%ほどで、肝細胞がんに次いで2番目に多い腫瘍です。
肝細胞がんと異なり正常な肝臓に発生することが多いことから、どんな人がなりやすいのかわからない上、進行が速いため、発見時には遠隔転移や多臓器への直接浸潤などにより切除困難であることが多いです。
がんが発生する部位により、黄疸、発熱、腹痛、肝機能障害といった症状が出るものから、がんが大きくなるまで症状がないものまで様々なタイプがあります。がんが増大すると、腹痛、腹部膨満感、肝機能障害などが現れることが多いといわれています。

転移性肝がん

転移性肝がんとは、肝臓以外の臓器に発生した悪性腫瘍が肝臓に転移したものを指し、その発生頻度は原発性肝がんより多いとされています。転移性肝癌の原発巣としては、消化器がん(胃がん、大腸がん、膵がん、胆道がんなど)が最も多く、他に肺がん、乳がん、頭頸部がん、腎がんなどの非消化器系癌のほか、平滑筋肉腫、神経内分泌腫瘍の肝転移を認めることもあります。

診断・治療の流れ

超音波検査

超音波を使って、がんの大きさや局在を調べることができます。がんの診断だけでなく、スクリーニング検査にも有効です。

上部下部消化管内視鏡検査(胃カメラ、大腸カメラ)

内視鏡を挿入して、消化管にがんの原発巣がないか確認します。病変が発見された場合は、病変全体あるいは一部の組織を採取して(生検)、病理診断を行うことができます。

CT(コンピュータ断層撮影)・MRI(磁気共鳴画像)、PET(陽電子放出断層撮影)検査

CT検査はX線を、MRI検査は磁気を利用して、がんの局在、周辺臓器への浸潤、他臓器やリンパ節への転移の有無などを評価することが可能です。PET-CTでは特殊な薬を使うことでがんの転移や再発を見つけることができます。

CT

CT

肝癌診療ガイドラインでは、肝細胞がんの危険因子(肝硬変、C型慢性肝炎、B型慢性肝炎、高齢、糖尿病、アルコール摂取等)を有する方は、3~6カ月間隔 での定期的なスクリーニング(腫瘍マーカーと超音波検査を軸に、dynamic CT/MRIを併用)によって、早期に肝細胞癌が検出される可能性が高まり、根治的な治療を受ける機会が増える可能性がある、と記されています。

治療

肝細胞がん

肝細胞がんの治療は、主に4つの方法があります。

  • 肝切除

    外科的にがんを切除する方法です。切り取る肝臓の大きさは、がんの位置、大きさ、がんが血管へ及んでいる程度など、がんに関係した因子と、肝機能や全身状態といった患者さん自身に関する因子から決定します。
    残る肝臓の大きさが、患者さんの生命維持に不充分と判断される場合は手術の適応とはなりません。

    • 核出術・部分切除

      核出術・部分切除

    • 亜区域切除

      亜区域切除

    • 区域切除

      区域切除

    • 葉切除・拡大葉切除

      葉切除・拡大葉切除

  • 経皮的局所療法

    体表から肝臓内の腫瘍に長い針を刺して薬を注入したり、熱を発生させて焼く治療法です。

    • エタノール注入療法:
      エタノールという液体を腫瘍内に注入する方法です。
    • マイクロ波凝固療法、ラジオ波熱凝固療法:
      針の先端からマイクロ波やラジオ波を発生させてがんを熱凝固させる(焼く)治療法です。
  • 肝動脈塞栓術

    太ももの血管から細い管を挿入し、がんに酸素や栄養を供給する血管に抗がん剤の投与や、詰め物をすることでがんを兵糧攻めにする方法です。

  • 肝移植術

    移植術に関しては、移植医療の診療案内をご覧ください。

    詳しくはこちら

胆管細胞がん

胆管細胞がんは外科的切除が、唯一予後を改善する可能性のある治療法といわれています。当科では上記の肝細胞がんと同様の基準で、手術の適応を決定しています。また、がんが巨大であっても、外科的に遺残なく切除可能である場合は積極的に手術を行っています。
膨大動脈リンパ節転移や他の臓器への転移が認められれば、肝切除は行わず、ゲムシタビンを中心とした全身化学療法を行っています。

転移性肝がん

原発巣によって治療方針が異なります。

  • 大腸がんの肝転移

    大腸がんの肝転移に対しては、肝切除が唯一長期生存を期待できる治療法であるとされ、その有効性は確立されています。「大腸癌診療ガイドライン」でも、根治切除可能な肝転移に対しては肝切除が推奨されています。
    当科では、腫瘍個数に関係なく、以下の条件を満たせば手術適応としています。

    • 耐術可能
    • 原発巣が根治切除されている、もしくは根治切除可能
    • 肝外転移がないか制御可能
    • 十分な残肝機能を保持しつつ肝転移巣の根治切除が可能
  • 大腸がん以外の肝転移

    大腸がん以外の疾患の肝転移に対する肝切除の有効性は、必ずしも明らかにはなっていません。
    しかし、肝切除以外の治療選択肢に乏しい場合は、各疾患の生物学的悪性度、原発巣の制御状態、肝臓以外の遠隔転移巣の有無などを総合的に考慮し、肝切除の適応を決定しています。

入院スケジュール
(手術療法の場合)

基本的な入院スケジュールです。患者さんの状態に合わせ予定を変更することがあります。

退院後の生活

体力低下に気をつけましょう

手術後は体力や筋力が落ちてしまうことがあります。散歩する、ストレッチするなど適度に体を動かしましょう。

腸閉塞

おなかが痛い、おなかが張る、吐き気がする、吐いたなどの症状が出たら、腸閉塞かもしれません。原因は傷口やおなかの中の傷に腸が癒着して、腸がつまってしまう(閉塞する)ことで起こります。また消化に悪いものを食べるとそれが詰まって腸閉塞になることがあります。注意が必要な食べ物を以下に挙げますが、これ以外の食べ物でも詰まることがありますし、逆に食べても大丈夫な方もいます。

  • キノコ類
  • わかめなどの海草類
  • イカ、貝
  • 繊維質の多い野菜(ごぼうなど)

原則として入院が必要です。治療は鼻から胃に管を入れたり、絶飲食、点滴が基本ですが、場合によっては緊急手術が必要になることがあります。

傷が痛い、傷から水が浸み出す

これらの症状が出たら傷口の感染(創感染)のことがあります。傷口を洗浄し、抗生剤を投与して治療します。

傷が膨らむ(腹壁瘢痕ヘルニア)

傷口に大きな力がかかると傷を縫った中の糸が切れることがあります。中の糸が切れるとそこに腸がはまって傷口が膨らむ状態になることがあります(腹壁瘢痕ヘルニアと言います)。そのため術後1ヶ月程度は重いものを持ったり、激しい運動はしないようにしてください。

退院後の治療

通院について

退院後もがんの再発がないかを確認するために定期的に通院していただきます。血液検査、超音波検査、CT検査、MRI検査などを行います。3ヶ月に1回程度通院していただき、検査を行います。一般的には術後5年間は通院していただきます。

転移、再発が見つかった場合

通院して検査をしていく中で、残念ながらがんの再発・転移が見つかることがあります。治療法としては初回手術の際と同様に肝切除、経皮的局所療法、肝動脈塞栓術、分子標的治療薬、肝移植といった各種治療があります。どの治療法にするかは詳しい検査をして、患者さん一人一人と相談して決定していきます。

緩和ケアチームもサポートします

当院には緩和ケアチームがあり、がんによる痛みといった体の症状を和らげるだけでなく、不安なことについても相談することができます。当院では早い段階から緩和ケアチームと連携して、患者さんができるだけ今まで通りの生活を送れるように取り組んでいます。

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