はじめに
副甲状腺とは
「副甲状腺」は甲状腺の裏側にある米粒程度の大きさの臓器です。通常、甲状腺の左右の上下2対になっており、合計4つあります。稀に5つめの副甲状腺がある方もいらっしゃいます。名前は甲状腺と似ていますが、まったく別の臓器で、働きも異なります。
副甲状腺は、副甲状腺ホルモン(PTH)とよばれる血液中のカルシウムの濃度を調節するホルモンを分泌する臓器です。体のなかでカルシウムが主に貯蔵されているのは骨ですが、副甲状腺ホルモンは骨からカルシウムを血液中に溶かしたり、また腎臓や腸から吸収を促進したりして血液中のカルシウムの濃度を上げる働きをしています。
われわれの体は、血液中のカルシウム濃度があがると、副甲状腺ホルモン(PTH)の分泌が減り、カルシウム濃度が下がる方向に動き、逆に血液中のカルシウム濃度が低い時には、副甲状腺ホルモン(PTH)がたくさん分泌され、カルシウム濃度を上げようとするような仕組みになっており、このようにして血液中のカルシウム濃度が一定に保たれています。
原発性副甲状腺機能亢進症
副甲状腺の異常により副甲状腺ホルモンが過剰に分泌されてしまい、その結果、血液中のカルシウム濃度が高くなってしまう病気です。副甲状腺機能亢進症は副甲状腺そのものが原因で引き起こされる「原発性」と副甲状腺以外が原因(腎臓)で起こる「続発性」のふたつに分類されています。
原発性副甲状腺機能亢進症の中には、4つのうち1つの副甲状腺が腫瘍化して引き起こされる場合と、遺伝子の異常により全ての副甲状腺が腫れてくる場合(過形成)があり、症状は同じですが、治療法は異なってきます。腫瘍によって発症する場合のほとんどは腺腫という良性腫瘍が原因であることが多いですが、稀に悪性腫瘍(副甲状腺がん)によって引き起こされる場合もあります。
症状
副甲状腺機能亢進症が発見されるきっかけは以下の3つであることが多いです。
- 健康診断などで偶然血液中のカルシウム濃度上昇を指摘される。
- 尿路結石
- 骨粗しょう症や骨折
健康診断の普及により、尿路結石や骨粗しょう症などが生じる前に偶然発見される症例が増えてきています。
診断のための検査・診断
血液検査/尿検査
血液中、あるいは尿中のカルシウム濃度の上昇が認められます。また、血液中の副甲状腺ホルモン(PTH)も上昇します。
画像検査
血液中のカルシウム濃度上昇、副甲状腺ホルモン(PTH)の上昇が認められた場合は、原発性副甲状腺機能亢進症が疑われるため、4つあるうちのどの副甲状腺が腫れているかを調べる画像検査を行います。超音波検査、副甲状腺シンチグラフィ(MIBIという副甲状腺組織に集まる性質をもった放射性同位元素を使った画像検査)、CT検査、MRI検査などが役に立ちます。
原発性副甲状腺機能亢進症にはMENやRET遺伝子という遺伝子の変異によって発生する場合があり、そのような場合には甲状腺、副腎、脳下垂体というホルモンを分泌する他の臓器にも腫瘍ができることがあり、多発性内分泌腫瘍症(MEN)と呼ばれています。原発性副甲状腺機能亢進症と診断された場合には、多発性内分泌腫症(MEN)でないかどうか、他の内分泌臓器に異常がないかどうかも調べます。
治療
手術が唯一の根治的な治療になります。画像検査にて腫れている副甲状腺がはっきり診断できた場合は、腫れた1腺のみを摘出します。多発性内分泌腫瘍症(MEN)によって副甲状腺が腫れている場合は将来的に4つの副甲状腺すべてが腫れてきてしまう可能性があるために、手術の際には副甲状腺を4つすべて摘出し、その一部の腕の筋肉の中に移植します(自家移植)。
続発性副甲状腺機能亢進症
副甲状腺そのものの問題ではなく、副甲状腺以外の病気が原因で副甲状腺ホルモン(PTH)が過剰に分泌され、その結果、血液中のカルシウム濃度が上昇する状態です。主な原因は慢性腎不全ですが、その他ではビタミンD欠乏症も原因となりえます。
慢性腎不全になると腎臓でビタミンDを活性化することができなくなります。ビタミンDは腸管からカルシウムを吸収するために必要なビタミンなので、腎不全の患者さんは腸管からカルシウムを吸収しにくくなり、結果として血液中のカルシウム濃度が低下します。そのため、血液中のカルシウム濃度を上昇させようと副甲状腺ホルモン(PTH)が過剰に分泌される状態が続き、長い間刺激され続けた副甲状腺は大きく腫大してきます。
治療
腎不全の患者さんでは血中のカルシウム濃度を保つために、カルシウム製剤の内服と活性型ビタミンD3製剤の内服をして、続発性副甲状腺機能亢進症にならないように予防することが大切です。最近、シナカルセト(商品名:レグパラ)やエポカルセト(商品名:オルケディア)といったカルシウム受容体作動薬によって副甲状腺ホルモン(PTH)の分泌を抑えることができるようになっており、ある程度病気が進行してしまった場合にはこれらの薬を内服します。
内科的治療を行っても病気が進行してしまう場合には、手術が考慮されます。手術では副甲状腺を4つすべて摘出し、その一部の腕の筋肉の中に移植します(自家移植)。